採卵

採卵とは

排卵直前に、経腟的に卵巣から卵子を体外に取り出す方法です。卵子は卵胞に包まれていて、卵巣の中にいます。この中から、1か月に1回、1つの卵子が成長します。
自然に近い排卵(完全自然排卵周期)で採卵を行う場合、採卵数は基本的に1個になります。また、排卵誘発剤を用いて卵巣を刺激し、人為的に卵胞の発育させる方法を行った場合は、複数個の卵子が卵巣の中で成長します。この方法は、できるだけ多くの卵子を採取することを目的に行われます。
今では、経腟超音波法による経腟プローブでの採卵が普及されています。この経腟プローブのおかげで、外来での採卵が安全にできるようになりました。施術は麻酔を行うため、痛みはほとんどありません。ただし、採卵におけるリスクがないとは言いきれません。麻酔は鎮痛剤、局所麻酔を基本にしています。
ここで、卵子は一度排卵してしまうと、体外から取り出せないため、採卵を行うタイミングが重要になります。このため、卵子の発育状況と成熟の度合いをみながら、排卵時期を予測し採卵時期のタイミングをうかがっていきます。
また、採卵では、卵子を良好な状態で回収することも重要です。経腟プローブを挿入して、超音波画像を見ながら、卵巣の中の卵胞に採卵針(採卵専用の針)を刺して卵胞液とともに卵子を吸引・採取していきます。卵子は直径0.1mmととても小さいため、顕微鏡で卵子を観察し、卵子の質を確認します。採卵によって「卵子が採取できるかどうか」、「何個の卵子を採取できるのか」が体外受精の成功のカギとなります。また、採卵にかかる時間は10分~15分くらいです。

採卵の流れ

採卵の具体的な手順について、以下解説していきます。

排卵誘発

採卵は良好な状態で、かつ数多くの卵子を回収できるかが重要です。卵胞の大きさとホルモン値を測定し、卵の成熟の度合いを確認してから、採卵日を決めていきます。卵胞の大きさや血中ホルモンの値などを考慮して、総合的に判断します。
採卵日が決まったらhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を注射し、排卵を促します。一般的に、hCG注射を打ってから約34~36時間以内に、卵子を採卵していきます。採卵後は、卵巣過剰刺激症候群(OHSS:卵巣を刺激することによって起きる副作用。卵巣が腫大してしまい、脱水症状や腹水・胸水、血栓塞栓症、腎機能障害などを引き起こす)による症状がないかを随時チェックしていきます。

麻酔

静脈麻酔もしくは局所麻酔などどの麻酔法を使用するかは、患者様の状況や採卵針の刺す位置、卵胞の個数によって変わってきます。静脈麻酔も局所麻酔も、採卵前に行います。経腟プローブで卵胞の位置を確認した後に、腟内の採卵針を刺すところの付近と、腹壁に麻酔薬を注入していきます。

採卵

1採卵前には経腟超音波検査を行い、排卵していないことを確認します。

2左右両側の卵巣から採卵を行います。可能な限り多くの成熟卵子を回収できるように、左右両側の卵巣からできるだけ多くの卵子を採卵するように努めますが、数だけではなく、穿刺によって卵巣出血が起きないように注意しながら、採卵を行います。

3腟壁は血流が多いので、穿刺の回数が増えると腟壁出血が起きる場合もあります腟壁の小さい血管を刺さないよう、超音波で確認しながら、穿刺を行います。

4採卵針の針の形に合わせて、卵胞膜にできるだけ直角に針が刺さり膜を破るように穿刺方向を調整します。卵胞内では採卵針が卵胞の真ん中にくるようにして卵胞液を吸引し、採卵針を抜く際には1回転させながら抜きます。こうすることで、卵胞液を残すことなく全て吸引できるように努めています。

5卵胞液の吸引方法には人の手で引く手動式と電動式のポンプがありますが、どちらの場合でも、卵子に損傷を与えないような吸引圧で、卵胞から針を抜くまでは吸引圧を下げないようにします。電動式ポンプは、吸引圧が一定にできるため操作しやすいのが特徴です。当院では、基本的には電動ポンプを使用しています。

6採卵針は細いほど出血量が少なく、かつ身体への負担は軽減されますが、ただしあまり細い針を使うと、逆に卵子がその針の中を通過する際に変形したり損傷したりする恐れがあります。

検卵

採取された卵胞液は、すぐに顕微鏡下に置かれます。卵子は卵丘細胞という細胞に包まれた状態で、卵胞液の中に存在します。この卵子と卵丘細胞に付着している血液や卵胞液を除去しながら顕微鏡下で観察し、採取された実際の卵子の数を数えていきます。そのため、採卵により穿刺した卵胞の数と、実際に回収できた卵子の数には違いがあります。採卵前に超音波で確認した卵胞数は、あくまで採卵時の推定卵子数の目安にしかなりません。
また、卵胞だけが育っていても、卵子がその中に入っていない場合(空胞)や、卵胞に卵子が付着していたために吸引した卵胞液卵子が含まれていない場合もあり、このような場合には卵子が回収されず、実際の採卵卵子数は減少してしまいます。
顕微鏡下では同時に「卵子の質」も観察していきます。未成熟の卵子や吸引時の影響などによる変形卵子が混ざっている場合もあります。このような卵子は、受精することが難しいので除いていきます。この作業が「検卵」です。

採卵におけるリスクと
その対処法

出血

まず出血場所がどこなのか、超音波や器具を使って確認します。穿刺を行った腟壁からの出血量が多い場合は、止血を行います。
また、腹腔内の出血が発生するという副作用が報告されたこともありますが、これは非常にまれです。

感染症

穿刺した場所から細菌が入り込むことで炎症・感染が生じ、発熱や膿瘍が生じてしまうこともあります。予防として、採卵の前後に抗生物質を投与します。

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