胚移植

 

胚移植は、初期胚(8細胞期胚)で排卵後3日目に、胚盤胞で排卵後5日目の時期に行います。基本1個(場合により2個)の胚を、細いやわらかな移植カテーテルで少量の培養液といっしょに吸引し、超音波で観察しながら子宮内膜へ優しく戻します。数日後、胚は子宮内膜にもぐりこみ、そこで分裂が始まれば着床が成立、その後に妊娠に至ります。
多くの胚が順調に培養できた場合は、余った胚をガラス化法で凍結保存し、次回に備えます。

胚移植の方法と流れ

  • 胚移植は培養室横の採卵室で行います。手術着に着替えてお待ち頂きます。
  • 患者様には手術台の上で横になって頂き、体勢を整えます。
  • 採卵時と同様に、生理食塩水による腟内洗浄をしていただきます
  • 移植専用の細く柔らかなカテーテルを用いて、胚(受精卵)と少量の培養液を一緒に吸い上げます。
  • 移植する医師は経腟超音波を見ながら、子宮内膜を傷つけないよう慎重にカテーテルを進めていきます。
  • カテーテルの先をもっとも着床しやすい場所である子宮底から1〜2cm手前のところまで進め、その場所に胚を移植します。
  • 移植後は、着替えをしてご帰宅ください(移植直後の安静は、医学的に根拠はありません)。
  • 帰宅後は、過度な運動を避けてお過ごしください。

治療成績

令和2年度の日本産科婦人科学会の全国調査では、採卵回数は239,348回で、移植回数は253,593回、妊娠数は83,702例です。また新鮮胚 vs 凍結融解胚の移植あたりの結果は、妊娠率で 21.0% vs 35.4%、出産数は6,239例 vs 52,513例、生産率は、14.9% vs 24.9%と報告されています。
年齢別の妊娠率では、20代が4割、 30代が3割、40代は2割でした。

胚移植における選択

新鮮胚移植と凍結融解胚移植、分割胚移植、胚盤胞移植それぞれにメリット・デメリットがあります。医師をはじめとしたスタッフが患者様状態に応じた方法を提案させていただきます。

初期胚移植と胚盤胞移植

着床間近の胚盤胞を移植することで 妊娠率が上昇し、子宮外妊娠率が低下するとの報告もあります。
排卵から3日目の初期胚移植(ET)と、5日目に行う胚盤胞移植(BT)の比較では、BTはより長期に体外培養を継続するため、ETよりも良好胚の選別が可能です。また、排卵5日目は子宮内膜の蠕動運動が低下していて、胚と子宮の同期が取れている状態での移植なので、より着床に適した時期になります。
しかし,長期間の体外培養は、胚にとっては決して最適な環境ではなく、正常な初期胚の中には胚盤胞まで到達できないものもある可能性があります。

新鮮胚移植と凍結融解胚移植

新鮮胚移植

採卵と同一の周期に、胚移植を行う方法です。治療時間は短期間で、かつ負担が少ないメリットがあります。しかし、子宮内膜が薄すぎるまたは厚すぎる場合や、卵巣過剰刺激症候群の恐れがある場合には、新鮮胚移植は行わず、胚は全胚凍結となります。

凍結融解胚移植

採卵と胚移植を同一の月経周期内で行う”新鮮胚移植”と異なり、採卵で得られた胚を一旦は凍結保存し、次周期以降に胚移植周期を行うことは、排卵誘発などで乱れた子宮内膜やホルモンの状態をリセットしてからの移植となるため、妊娠率が高いというメリットがあります。一方、凍結・融解の過程で、胚がストレスを受けて変性し移植ができなくなってしまう可能性や、凍結・融解といった新たなコストがかかってしまうというデメリットもあります。

自然周期胚移植とホルモン補充周期胚移植

凍結融解胚移植は、自身の自然な排卵を確認して、適切なタイミングで胚移植する自然周期とエストロゲン・プロゲステロン製剤を投与して人工的に胚移植を行うタイミングを設定するホルモン補充周期の移植があります。ともに凍結融解胚移植であり、排卵誘発剤を使用している周期ではなく子宮内膜や黄体ホルモンへの影響をなくし着床率を高めることができるというメリットは共通ですが、デメリットに違いがあります。自然周期は排卵日を確認するために卵胞計測のための診察日が予期せず増えること、ホルモン補充周期では薬剤を使用することで患者さんのコストが高くなることです(ただし、ホルモン補充周期には、患者さんの都合の良い日に診察や胚移植を行えるスケジュール的なメリットがあります)。
keyboard_arrow_up