顕微授精(ICSI)

顕微授精とは

顕微授精とは、ガラス針の先端に1匹の精子を入れて、顕微鏡で確認しながら卵子に直接打ち込む方法です。
1992年、ベルギーのパレルモらによって、世界で初めてヒトの顕微授精による妊娠・分娩の成功が報告されました。この成功を機に、顕微授精は急速に世界で広まり、世界の体外受精の約70%の治療が、この顕微授精という方法で行われています。
日本では1994年に第一号の顕微授精の分娩例が報告されてから、実施件数が年々増えています。
シャーレの中の卵子に多数の精子をふりかけて、自然受精を待つ従来の体外受精(conventional IVF)とは異なり、精子が1匹だけでも受精可能です。そのため、精液所見が不良な男性不妊症に対する治療法として顕微授精を行う不妊症クリニックが多くなりました。しかし、こうした”精子が少ないから顕微授精”という考えは、対症療法に過ぎず、妊娠という結果になかなか結び付かない場合も多く見受けられます。やはり、男性不妊症の根本的解決も顕微授精と同時に進めていかなければならないと考えます。

顕微授精の適応

精子濃度や運動率が低いような男性不妊症や受精障害などがあって、顕微授精以外の方法では妊娠する可能性が極めて低い場合は、顕微授精の適応となります。
卵子の数が少ないからや高齢女性だからといった理由だけで、顕微授精を行うことは必ずしもおすすめできません。

顕微授精の方法

従来のICSI(顕微授精)

顕微授精も体外受精と同じように、排卵誘発を行って多くの卵子を採取していきます。そして、採取された卵子一つ一つに対して、顕微授精を行います。

卵子の条件

採卵時の卵子周囲に付着している「卵丘細胞」を取り除きます。卵丘細胞はヒアルロン酸によって膨らんでいるため、それを分解する酵素を加えていきます。その後、卵子からはがす作業を行います。
なお、顕微授精に使う卵子は成熟している必要があります。第一極体という小さな細胞が観察されたら、「成熟した」というサインになります。顕微授精を行う前には、この状態になっているかどうかをチェックします。

精子の選択

顕微鏡下で形態良好な精子を選び、精子の不動化(動きを止めること)を行います。不動化は、精子の細胞膜を傷つけることで卵活性化物質の放出を促し、受精後の卵子を活性化させる作用もあります。従来の顕微授精の方法では、泳いできた精子をインジェクションピペットという細いガラス管で押さえつけて、そのまま真横にピペットを動かし精子の尾部を切断します。その後にこの不動化した精子をインジェクションピペット内に吸引します。ゆっくり吸引しながら、精子の尾部の先端の場所を探り、尾部から吸引します。

卵子のホールド

卵子の赤道面にピントを合わせホールディングピペットの位置を調整し、12時方向に第一極体がくるように、卵子を固定します。

精子の注入

卵子の中心点へインジェクションピペットの先端を入れることで、卵子を傷つけずに済みます。ピペットを卵子の3時方向より透明帯を貫通させるために刺入します。ピペット先をホールドされた卵子の3/4くらいの位置まで持っていくと、細胞膜の張りを感じなくなる時があります。これは膜の破れた瞬間で、「破膜」と呼びます。破膜後は、卵子に精子をすぐ注入せずに、精子の頭部だけを出した状態で、しばらくそのままの状態にして、精子が卵子の細胞質になじむのを待ってみます。そしてピペットを抜いた時に、精子が細胞質内に留まれたことが分かったら「完了」です。

注入終了

顕微授精が終了した卵子を、培養器へ移動し経過観察を行います。

ピエゾICSI(顕微授精)

ピエゾマニュピュレーターに装着したインジェクションピペットの先端を前進させ、微動な慣性力を与えることで透明帯を変形することなく通過し、細胞質と透明帯の間にある囲卵腔にピペットを容易に刺入できます。この時点で微弱なパルスを1回与えてみると、細胞質の中にピペットが簡単に入り、細胞質を吸引することなく精子を注入することができます。
従来の方法とは異なり、卵細胞に与えるダメージが抑えられるメリットがあります。しかし、デメリットとして、卵の質によっては透明帯を貫通できないことがあり、かえって時間がかかることもあります。

レスキューICSI(顕微授精)

レスキューICSIとは、体外受精を行った翌日に、受精現象が認められない卵子に対して行う顕微授精です。しかし、レスキューICSIを用いてもあまり良い結果が得られないことも多く、最近はあまり実施されていません。

TESE-ICSI: 精巣内精子によるICSI(顕微授精)

無精子症(閉塞性および非閉塞性)や、極めて精子の数が少ない患者様に対して、精巣内精子採取法(TESE)を行い、そこで採取した精巣内精子を使用して顕微授精を行う方法です。

精巣内精子とは

精巣内で精子が形成されると、精子は精細管の内腔の中へと放出されます。この段階では、射精されて出てくる精子と一緒です。しかし、状態や機能といった点で異なります。射精されて出てくる精子は成熟していますが、一方精細管の内腔にある精巣内精子は、運動性も受精能力もない、機能的に未熟な精子です。精子の変化の初期段階は精巣内で起こり、その後は精巣上体へ移ります。精巣上体を通過する時点で、精子の核が徐々に濃縮し、形も細長い円錐状へ変わっていきます。精子は精巣上体で成熟した後に運動能力を備え、射精するまで保存されます。
また、精子は精巣上体で運動能を獲得するため、精巣内精子よりも精巣上体精子の方が運動精子の割合が高くなり、非運動精子よりも運動精子の方が顕微授精の成功率が高くなるため、できるだけ運動精子を回収することが望まれます。

精子の採取方法

無精子症の患者様の精子を採取するには、いくつかの方法があります。
しかし、以下の表に、精子採取の方法と特徴をお示ししますが、精巣内精子採取法(TESE)が現在の精子採取の最後の手段であることは間違いありません。TESEの精子回収率は病状によっては非常に困難な場合もあります。そこで、精子回収率の向上と手術による精巣へのダメージを最小化することを目的として、顕微鏡下精巣内精子回収法(micro-TESE)が開発されました。micro-TESEは、特に重度の造精機能障害に有効だと言われています。

以下の表に、これらの方法の特徴について示します。

※このテーブルは横にスクロール出来ます。

術式 適応(無精子症) 採取場所 方法・特徴
閉塞性 非閉塞性
Simple TESE
(精巣内精子回収法)
× 精巣内

手術で精巣の組織から肉眼的に直接、精子を採取する方法です。ます。
閉塞性無精子症や射精障害の場合に適応となります。

MESA
(精巣上体精子回収法)
× 精巣上体

陰嚢にメスを入れ、精巣と精管の間にある精巣上体から精子を吸引採取する方法です。閉塞性無精子症が適応になります。

micro-TESE
(顕微鏡下精巣内精子回収法)
精巣内

精巣を切開し、精巣内のほぼ全体を顕微鏡で観察する方法です。非閉塞性無精子症や精子数が極めて少ない場合に適応となります。

keyboard_arrow_up