男性不妊

男性不妊症の原因

 男性の不妊症の原因は以下の3つに分けられます。

  1. 精液内の精子の数が少ない、もしくは運動率が低下している、またはその両方
  2. 勃起ができず挿入できない、もしくは勃起はするが射精が難しい、またはその両方
  3. 精路(精子の通り道)が閉塞を起こしているため、精液中に精子がない

1は精子をつくる過程に原因がある「造精機能障害」、2は「性機能障害」、3は「精路通過障害」とそれぞれいいます。

造精機能障害

精子を造り出す力が落ちていることで、精子の数が少なくなったり、精子の動きが悪くなったりする状態です。また、奇形率が多くなることで、受精する力も低下します。「乏精子症」や「非閉塞性無精子症」などがこの造精機能障害にあたります。
本来、精子は精巣(睾丸)の中で作られ、精巣上体を通り抜ける間に運動能力を獲得し、受精ができる精子になります。しかし、精巣での精子形成や、精巣上体での成熟過程に異常があると、造精機能障害が生じます。
原因は色々ありますが、多くははっきりと分かっていません。治療法は漢方薬やビタミン剤、抗酸化剤などを用いる薬物治療が選択されます。
また、精巣の上にある静脈内の血液が逆流することで、精巣周辺に静脈瘤ができる「精索静脈瘤」も、この造精機能障害の原因の一つです。精索静脈瘤の場合は、外科的手術を受けることで精液所見を回復することが可能と考えられています。
ほかには、視床下部~下垂体で造精機能を司るホルモンの分泌低下による「低ゴナドトロピン性性腺機能低下症」や、停留精巣の手術後やおたふく風邪の発症によって生じる「精巣炎」、「クラインフェルター症候群(47,XXY)」のような染色体異常疾患、Y染色体の微小欠失、抗がん剤投与による造精機能の低下・消失なども造精機能障害の原因になります。

性機能障害

性機能障害は主に、勃起機能が低下する「ED(勃起不全)」と、射精ができない「射精障害」などがあります。
動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病が原因でEDになる方もいますが、最も多くみられるのは、心因性のEDです。心因性のEDでお悩みの方の中には、タイミング法のように、決められたタイミングで性行為を行う必要がある状況そのものがストレスでEDを発症する方も少なくありません。また、勃起挿入はできても射精のプレッシャーが原因で腟内射精ができなくなる「腟内射精障害」もあります。
さらに、「射精障害」の場合、射精はできても精液が膀胱内に逆流してしまう「逆行性射精」や、精液が出なくなる「無精液症」、「早漏・遅漏」など、射精に関する機能が全て備わっていても、本人にとって満足できる射精が難しい場合もあります。原因は神経障害や糖尿病、心因性、薬剤性など、患者様によって様々ですが、適切な診断と治療を継続することが重要です。

精路通過障害

造精には問題がないものの、精子の通り道に何らかの異常が起きている状態です。精巣内では精子が作られているのに、精液中に精子が出てこない「閉塞性無精子症」が挙げられます。代表的な疾患として、先天性の両側精管欠損や精巣上体炎後の炎症性閉塞などがあります。閉塞した精路を改善させたり、精巣内の精子を採取して顕微授精を行ったりすることで、妊娠できる可能性が高まります。

男性不妊症の検査

睾丸がいつもより小さくなったり、柔らかくなったりした場合は、精巣に何らかの問題が生じている恐れがあります。特に、睾丸の上にもう一つ睾丸があるかのように見える、精索静脈瘤がみられる場合は要注意です。
本来、陰嚢内は体温より低い温度をキープしていることから、睾丸は低い温度で精子を造りやすいのですが、精索静脈瘤では体温と同じ温度の血液が睾丸近くにたくさんあるため、陰嚢内でも睾丸の温度が低くなりません。精索静脈瘤は左側に多く、起立してお腹に力を入れた状態で見つけやすいです。
睾丸が陰嚢内の上にある方、または鼠径(そけい)部に位置している方(停留睾丸)の場合も、睾丸の温度が高くなりやすく、精子を造る能力が衰えてしまいやすいです。
特に、幼少期に鼠径ヘルニア(脱腸)の手術を受けた方の場合は、男性不妊症にかかりやすい傾向があります。睾丸で作られた精子は鼠径管の中を通るため、そこの手術を受けたことによって、精子がうまく通らなくなるケース(精路通過障害)は少なくありません。
また、おたふく風邪を発症した時に、睾丸が腫れあがった人は、睾丸炎(精巣炎)を生じて精子を造る力が衰えている可能性があります。おたふく風邪だけではなく、高熱が長引いた方や、睾丸付近に痛みを感じたことがある方も、睾丸の働きが悪くなっている恐れがあります。睾丸の横に位置する副睾丸が腫れあがる「副睾丸炎」や、「前立腺炎」などを発症した方も、発症によって精子が通りにくくなっている可能性が考えられます。
特に過去、抗癌剤治療や放射線治療を受けてきた方は、睾丸の状態が悪くなる傾向があります。抗癌剤を使うと、治療終了後、長期間経過した場合でも精子の産生に支障をきたすケースがあります。
また、過去の疾患や受けてきた治療・手術だけではなく、肥満や喫煙、睡眠不足、食習慣の乱れなどといった、生活習慣の不摂生も精液の状態へ悪影響を及ぼすので、気を付けましょう。

男性不妊症の治療

症状や原因に合わせて薬物療法や手術療法などが行われます。

性機能障害

投薬治療

射精するときに、精液が膀胱へ逆流する逆行性射精がある場合は、抗うつ薬を用いることがあります。
また、勃起不全(ED)の治療薬として、PDE-5阻害薬を用いることもあります。これは、特にEDが不妊原因の一つである時に処方する薬です。

自慰行為の矯正

精子形成に問題がなくても、誤ったマスターベーションの方法に慣れてしまっているため、性交時に射精できない場合があります。器具を用いて自慰行為の方法を矯正できるか試みますが、場合により人工授精が必要なこともあります。

人工授精

性機能障害の治療を行っても改善されない方、または治療を希望しない方、高齢で速やかに妊娠を目指したい方の場合は、人工授精を検討します。

軽度~中等度の
精液の性状低下

生活習慣の改善

精子形成や射精の異常が生じるリスクのある薬剤や、過度な飲酒・喫煙など、男性不妊の原因になり得るものは極力避けていただきます。また、サウナや長時間の入浴、膝上でパソコンを使うなど、精巣を長時間温度の高い環境にさらす行為も控えましょう。

薬物療法

漢方薬、ビタミン剤、血流改善薬などを服用していただきます。
主に、精子の数が少ない場合、または精子の運動率が低い場合に選択します。
また、脳の視床下部または下垂体の機能不全が原因でおこる精巣機能不全症例(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)の方には、hCG、FSH療法と呼ばれる内分泌療法を行います。このように、精巣機能不全症例の場合は、治療前の状態が無精子症であっても、薬物療法によって改善が期待できる可能性があります。ただし、内分泌療法に関しては、定期的な注射が必要になるため、患者様ご自身で自己注射を打っていただく必要があります。

人工授精

軽度~中等度の精液の性状低下(精液中の精子数や運動率が悪くなる状態)の場合、人工授精で妊娠することがあります。

精索静脈瘤手術

精索静脈瘤は、自然妊娠や不妊治療の成功率の低下を引き起こす原因です。そのため、妊娠率を改善するために治療する必要があります。
手術方法は主に高位結紮術と低位結紮術の二種類です。これらは、逆流の原因となっている精巣静脈を結紮(けっさつ:糸などで縛って固定する)する方法です。一般的には、手術用顕微鏡を用いた顕微鏡下精索静脈瘤手術が行われます。

高度の精液の
性状低下・無精子症

顕微授精

 様々な方法を行っても、精液中から精子の回収ができない場合に行います。これらの方法で採取した精子は、体外受精(顕微授精法)で卵子と受精させていきます。

精巣内精子採取術
(conventional TESE)

 陰嚢の皮膚を小さく切開し、精巣組織の一部を採取する方法です。採取した精巣組織に精子が確認できた場合は、顕微授精で使用します。閉塞性無精子症の方で、精路再建術が難しい方またはできなかった方に対して行います。閉塞性無精子症の場合、精巣内での精子形成においては問題がないため、ほとんどの方は精子の採取が可能です。

顕微鏡下精巣
精子採取術micro-TESE

非閉塞性無精子症の場合は、精巣内での精子形成に問題がある場合が多いため、陰嚢の皮膚切開から精巣を体外に出して、手術用顕微鏡を用いて精子形成のある位置を綿密に探し、精子の採取を試みる方法を行います。ただし、非閉塞無精子症の場合など、この方法を行っても、精子採取ができないこともあります。

経皮的精巣上体精子吸引術
(PESA)

閉塞性無精子症に対して行う治療法です。閉塞性無精子症の治療では、精巣を切開せずに、経皮的に精巣上体から精子を針で吸引し採取することです。

顕微鏡下精巣上体精子吸引法
MESA

閉塞性無精子症に対して行う治療法です。手術用顕微鏡を用いて精巣を切開せずに、精巣上体から精子を針で吸引し採取することです。

精路再建手術

精路(精子の通り道)に閉塞がある場合、その部分を取り除いて精路を再建していきます。精路通過障害が解消されると、自然妊娠が期待できるようになる方もいらっしゃいます。精路再建手術の方法は以下の通りです。

精管精管吻合術

パイプカット術後や鼠径ヘルニア術後など、精管の閉塞が原因で無精子症が起きている方に向けて行う方法です。閉塞部位の末梢側と中枢側の開通している精管同士をつなぎあわせる、顕微鏡下精管精管吻合術が行われます。閉塞していた期間や原因にもよりますが、術後は約80~90%の割合で、精液中に精子が入るようになります。

精管精巣上体吻合術

精巣上体炎の発症後や、精巣上体での閉塞が原因で無精子症になっている方に向けて行う方法です。精巣上体の一部を切開し、精管とつなぎあわせる顕微鏡下精管精巣上体吻合術を行います。閉塞の原因によりますが、術後は約40%程度の割合で、精液中に精子が入るようになります。

射精管解放術

前立腺嚢胞などが原因で、射精管(前立腺にある精液が尿道に出てくる部位)の閉塞がある場合、経尿道的内視鏡を用いた射精管解放術を選択します。

非配偶者間人工授精
(AID)

当院ではAIDは行っておりません。
AIDは、以下にあてはまる方に向けて行う方法です。

  • 女性側に明らかな不妊原因がないか、あるいは治療可能であること
  • 精巣内精子採取術(TESE)を行っても精子の採取が困難であった無精子症

また、妊娠を強く希望される場合は、非配偶者(夫以外の提供者)の精子を用いた人工授精治療を考慮することも可能です。
ただし、この方法で妊娠・出産が達成できた場合、父親と子どもとの間に遺伝的な繋がりがないことや、それを子どもに伝えるかどうかなどを考える必要があります。
AIDを検討される際は、必ず慎重に考えてから決定することを推奨します。当院では、遺伝カウンセリングをはじめとした専門のカウンセラーが在籍していますので、治療以外に関してもご不安な点などありましたら、お気軽にご相談ください。

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