不育症の定義
妊娠はするが、流産や死産を繰り返す状態と定義されます。
つまり、赤ちゃんが出産にまで到達できない、以下の状態が不育症の定義に当てはまります。
不育症とは、妊娠はするものの、以下の理由により生児を得られない状態と定義されています。
- 反復流産: 2回以上連続する流産
- 習慣流産: 3回以上連続する流産
不育症の頻度は5%程度、習慣流産は1~2%であり、1回の流産は約15%と推定されています。
*ただし、すでにお子様がいる方は、流産や死産歴が連続していなくても2回以上の流産や死産歴があれば不育症に含めます。
また、流産や死産歴が2回未満でも以下の既往がある場合は、抗リン脂質抗体症候群を疑い検査を行う必要があるため、不育症に準じて考えます。
・ 1回以上の妊娠10週以降の原因不明子宮内胎児死亡
頻度の割合
流産は加齢とともに増加すると知られています。流産の頻度は平均15%程度で、40歳を越えると頻度は急激に高まります。また、国内の調査によりますと、習慣流産の頻度は妊娠を経験した女性の0.9%、不育症は4.2%、1回以上の流産を経験していた割合は38%でした。欧米では習慣流産は約1%、反復流産は約5%と報告されており、ほぼ同様の結果となっています。
また、近年は、比較的高齢で妊娠される方が増えている影響により、流産の割合は増加傾向にあります。
不育症のリスク因子と頻度
リスク因子
不育症の原因は主に4つあります。
凝固異常
抗リン脂質抗体によって血液が固まりやすくなり、血栓がつくられやすくなります。胎盤の血管に血栓ができることで、胎児に栄養が運ばれなくなるため、流産や死産のリスクが高くなります。
代表的な疾患として挙げられるのが、抗リン脂質抗体症候群です。抗リン脂質抗体症候群は自己免疫疾患の一つで、習慣流産・胎児死亡などを引き起こす原因となる可能性があります。
また、抗リン脂質抗体であるループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体や抗β2‐GP1抗体といった抗体が、体内で産生されることで発症すると言われています。
このような抗体が作られる特徴は下記に示す診断に活用されています。
抗リン脂質抗体症候群は、下記の表に示す基準により診断が行われます。臨床所見に1つ以上当てはまり、かつ検査所見(抗リン脂質抗体の有無)に1つ以上当てはまった場合は、抗リン脂質抗体症候群の診断を満たします。
表1 抗リン脂質抗体症候群の診断基準(札幌基準シドニー改定:2006 年)
※このテーブルは横にスクロール出来ます。
臨床所見 |
血栓症 |
1回以上の動脈や静脈、またはそれよりも小さな血管にできる血栓症と診断された場合 ※血管にできた炎症によって血管が塞がった場合は除く |
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産科合併症 |
A |
妊娠10週以降で他に原因のない正常形態胎児の1回以上の体内死亡 |
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B |
重症妊娠高血圧腎症、子癇または胎盤機能不全による妊娠 34 週以前の形態学的異常のない胎児の1回以上の早産 |
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C |
妊娠10週以前の3回以上連続した他に原因のない習慣流産 ※リスク因子である子宮形態異常、内分泌異常、パートナーのいずれかの染色体異常による流産である場合を除く |
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検査所見 |
ループス アンチコアグラント陽性 |
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抗カルジオリピン(CL)IgG 抗体、抗カルジオリピン(CL)IgM 抗体が陽性で抗体の強さが中程度または高度の場合 |
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抗β2GPI IgG抗体, IgM抗体が陽性 |
子宮形態異常
子宮の形に奇形が認められる子宮奇形も不育症のリスク因子となります。
不育症の原因となる子宮の異常には、先天性と後天性の形態的(かたちの)異常があります。先天性子宮形態異常(子宮奇形)の代表は、中隔子宮といって”子宮の内腔への出っぱり”があるものです。代表的な「中隔子宮」と「双角子宮」は、不育症患者に多くみられる子宮奇形です。また、後天的な異常の代表として、子宮粘膜下筋腫(子宮の内側にできる子宮筋腫)が挙げられます。他に、子宮腺筋症、子宮腔癒着症、そして子宮内膜ポリープなどがありますが、実際に不育症や流産の原因になり得るかの判断は非常に難しく、子宮卵管造影やMRI、子宮鏡検査、3D超音波検査などを用いて正しく診断した後に、専門的に判断する必要があります。
内分泌異常
橋本病のような、甲状腺機能が低下する場合、不育症のリスク因子になります。
また糖尿病にかかっている場合は、流産になりやすいです。血液検査で甲状腺ホルモンや血糖値を調べることで、これら疾患の有無を確認します。もし甲状腺異常または糖尿病があった場合は、その治療を行い、症状をコントロールして妊娠・出産に支障のない身体作りを目指します。
染色体異常
パートナーのどちらかに均衡型相互転座(ある染色体のある一部がお互いに入れ替ったりしますが、染色体の全体の遺伝子に過不足がない状態)のような、染色体の構造的異常がある場合は、卵子や精子ができる際に、一定の頻度で染色体異常が発生します。そのような場合、受精後に流産となったり染色体異常を持つ赤ちゃんの出産の確率が高くなります。
リスク因子の頻度
妊娠初期での流産の最も大きな要因は、胎児の染色体異常だと考えられています。一方で、厚生労働科学研究班(齋藤班)の報告によりますと、反復流産や習慣流産を引き起こす不育症のリスク因子については、最も頻度が多かったのは偶発的流産・リスク因子不明であり、65.3%であり、抗リン脂質抗体陽性10.2%、子宮形態異常 7.8%、甲状腺異常6.8%、カップルのいずれか染色体異常は4.6%でした。
検査
何度も流産を繰り返したり、早産や新生児期の死亡を引き起こす場合には不育症を疑い、それぞれのリスク因子に伴う検査をすることが推奨されています。当院は不育症スクリーニングを可能な限り保険診療で行っていきます。
女性に対する検査
- 抗リン脂質抗体
- 内分泌検査
- 血栓形成素因
- 不規則抗体
- 染色体検査
- 子宮の異常
男性に対する検査
- 染色体検査
治療法
治療法はリスク因子によって異なります。特に、流産は遺伝的要因と環境的要因が影響していると言われています。そのため、環境要因を調べるために、問診では患者様の生活習慣についてお聞きしております。
特に、以下の3点につきましては、妊娠初期の自然流産や不育症リスクを高めるものなので、控えることをおすすめします。
- 喫煙
- カフェイン
- アルコール
※肥満体型(BMI数値が25以上)の方も上記と同じように、不育症リスクが高くなるため、減量をおすすめいたします。患者様が次回の妊娠を無事に継続できるよう、精一杯サポートして参りますので、分からないことがありましたら遠慮せずにお聞きください。
抗リン脂質抗体症候群
抗血栓療法(血栓を作らないための予防治療)として、低用量アスピリンとヘパリンの併用療法を行います。
子宮形態異常
ほとんどの子宮形態異常は症状がありません。そのため、他疾患の検査や治療を受けている時に偶然発見される場合が多いです。子宮の形の奇形があっても日常生活に支障をきたす可能性は低いため、不育症を治療する場合を除いて、治療する必要がありません。
ただし、不育症の治療において、特に流産率が高いと言われている中隔子宮の手術療法を行うことは極めて重要です。当院では、従来の切開術ではなく、お腹を切らずに中隔を切除する「子宮鏡下中隔切除術(TCR)」を行います。
内分泌異常
甲状腺の機能が低下している場合に、治療を行います。治療は妊娠前から行い、甲状腺機能の回復を優先して行います。また。妊娠後・妊娠中でも、治療を継続する必要があります。
糖尿病も甲状腺機能と同じように、妊娠前に治療を行う必要があります。妊娠中・出産後も血糖コントロールは継続していきましょう。
染色体異常
反復・習慣流産患者の2~6%が、男性もしくは女性の染色体に均衡型相互転座(ある染色体のある一部がお互いに入れ替ったりしますが、染色体の全体の遺伝子に過不足がない状態)があると言われています。ただし、転座保因者に対する治療方法はないため、患者様に遺伝カウンセリングを行い正しい情報提供を行う必要があります。